インド総選挙、中央選管が発表した最終数字は、有権者7億1,007万人、投票率は58.43%、投票者数は4億1,491万人、開票は1日で終わった。結果は国民会議派率いる連立与党の圧勝であった。
インド政府が発表しているインドの識字率は65%で、教育水準はまだまだ低い。特に、地方農村、少数山岳民族の教育水準は平均以下、生活レベルも低く栄養失調者も多い。「貧困問題」はインド政治の宿命である。国連の調査では1977年の栄養失調者は人口の51.3%、の2007年には19.3%、栄養失調者は30年間で32%減少している。その間、驚く事に人口は約5億人も増えている。毎年、年率で1%以上、栄養失調者が減少している事になる。言い換えれば、毎年1%以上の貧民が栄養を摂取できるようになっている。食生活の改善=生活レベルの向上の証だろうし、インド政府の政策が徐々にではあるが効果を発揮している証だろう。数が多すぎて一気には出来ない。一気にやれば国が乱れる。現在の栄養失調者は約2億4千万人、準栄養失調者は数億人いる。そして彼らの内18歳以上は皆‘有権者’である。
貧しいから政治に関心がある? 教育水準も生活水準もインドと比較にならないほど高い「民主国家日本の選挙」の投票率は何%だろうか?
2004年度の総選挙で、優勢と言われたインド人民党(BJP)は敗退した。敗因は、好調なインド経済に浮かれ過ぎ、「貧困対策」に熱心でなかった事。特に農村が切望する灌漑設備設置等の「公約」を実現しなかった事などが不評を買った。「経済成長」の影に旱魃や洪水の被害で苦しむ多数の農民がいた。「貧民救済」を掲げた国民会議派や地方政党に票が流れたのは、当然と言えば当然の結果だった。
マンモハン・シン政権、高度経済成長の波に乗っているが、一方で、2007年頃から総選挙対策を着々と進めていた。2007年度、2008年度、2009年度の予算を見れば一目瞭然である。国是として「貧民・農民救済策」を掲げ実行した。農民の借金肩代わり、農業・農業金融支援、教育重視・教育税の導入、指定カースト・指定部族師弟の大学入学枠大幅拡大、インフレ対策…間接税・輸入関税の大幅減税、最低賃金の大幅UP…。
地方政党も地方の有権者代表として躍進しているが、所詮、国庫を握るのは中央政府である。地方の生活水準も経済成長と共に、徐々にではあるが、向上してきている。農民や低階層労働者の収入も着実に増えてきている。農民もシャンプーもチョコレートも買える様になり、携帯電話も持てるようになってきた。農村の情報量は飛躍的に拡大してきている。
「世界経済後退」…、「インドの農村には殆ど影響が無い」と言っても過言ではないだろう。原油高騰も関係ない。車も電気も水道も無いインドの農村…。この農村に有権者の70%以上が住んでいるのが実態である。徐々に生活環境が改善されてきている事実、それが今回の総選挙に反映されたのだろう。
地方政党が大敗した理由も明らかだろう。貧民は自分が有利になる、実利に繋がる、基盤の強い政党を選んだ。将来的リーダーとして担ぎ出されたラフル・ガンジーに対する淡い期待もあるだろう。多くの貧民の心の中では、まだまだガンジー家はカリスマ的存在であり神様である。インテリ層がガンジー家による世襲政治を幾ら批判しようと、票の大勢を握るのは貧民である。貧民が「多少なりとも裕福になる」につれ、更なる向上と「安定」と「安全」を志向するのは当然だろう。インド人はCommunityとSecurityを最重要視する国民である。
今回の総選挙では、インド人民党も地方政党も左派共産党も、明確な争点を見出せなかった。インド一般大衆はイスラム教徒との諍いを好まない。パキスタンとの諍いも好まない。ましてや米印度原子力協定問題などは他山の石である。「地方政党躍進の可能性が大きい」「第三勢力台頭の可能性」とマスコミに持ち上げられ、挙句の果てに翻弄され、油断したのかも知れない。インドのマスコミの予想などは、極めて‘いい加減’である。マッチ・ポンプ的な報道も多い。新聞もテレビも無関係の人が圧倒的に多いのも事実だろう。
兎も角、貧困階級を味方につけた国民会議派の大勝、今後は益々「貧困政策」重視とならざるを得ない。「貧困対策」は国家財政の圧迫要因にもなり、経済成長にマイナスに影響する可能性もあるが、「貧民の生活レベル向上」は、「消費拡大」につながり、「国内市場拡大効果」がある。どのようにバランスを取って行くかが、今後のインドのKEYとなる。巨象のように、ゆっくり「インディアン・タイム」で歩けば良い。そのペースの目標が今年度後半の経済成長率9%、世界の投資家も注目しているだろう。SENSEXもそろそろ底を打つ?


by Tom
ガソリン1ガロン3.5ドル…高い…